モトアザブ退屈日記

日々のモノ・コト・忘備録。クルマ、時計、オーディオとか骨董とか。

古いセイコーの機械式時計 ③ 45キングセイコー(4502-7001)

キングセイコーがSEIKOのレギュラーラインで復刻されるとのこと。

www.seikowatches.com

140周年記念で復刻された44KS(KSK)がレギュラーライン化されたのですね。

motoazabu-diary.com

去年の7月にネットオークションでKSKとは違う「手巻きのキングセイコー」を手に入れていました。デイト付の45KS、Ref.4502ー7001という機種です。

手巻きのキングセイコー 45KS

45系キングセイコーは、1968年から亀戸(第二精工舎)が製造した手巻きの腕時計。ちなみに自動巻きは諏訪の56系。

翌年1969年にはセイコーが世界初のクオーツ腕時計を市販しますから、45KSは機械式時計の最後の時代の高性能機ということになります。「セイコーの手巻き機械の最高峰」と呼ばれるのはこのためです。

腕時計には「テンプ」という、振り子時計で言う「振り子」役割をする部品があります。このテンプは振動数が高い程、理論上時計としての精度が高くなります。しかし、それだけ高速度の振動を実現するためゼンマイは強力なものが要求され、強力な力を受ける部品も摩耗が大きいので10振動の機械は現在でも一部の高級機にしか採用されていません。

秒針の動きが非常にスムースなのが10振動の見た目の特徴です。電気時計のスイープ運針のような滑らかさです。

軽自動車にV8エンジン

トルクが強力な45KSのゼンマイは何かの拍子で切れるとゼンマイが収まる香箱自体が破損したり、関連する歯車の「歯欠け」がよく見られるのだそうです。「軽自動車にV8エンジンを積んでいるようなもの」という表現が45KSの特徴をよく表していると思います。

過去にも45KSはいくつか持っていたのですが、譲ったりして手元には部品取り用のドナーしかない状態でした。45KSは文字盤が劣化しやすいようで、オークションでは綺麗な文字盤の45KSを見かけることはほとんどありません。たいてい文字盤の端部が腐食していたり、黄変していたりします。オークションに出ていた45KSは文字盤の劣化が少なく、「動作未確認」ではあったのですがケースの状態も良さそうなので気付くと落札していました。

届いてみるとやはり文字盤の変色や腐食はなく、ケースも多少の打痕はありますがシャープなエッジも残っていてきれいです。外観はきれいなのですが・・・不動品。手巻きのゼンマイが巻けません。「やっぱりなぁ」と落胆するもどうも調べてみるとゼンマイ切れだけのようです。各種歯車は欠けもなく、中身はあまり使われた形跡がありません。

これは・・・ドナーの45KSとセットで信頼できる時計師の方に修理をお願いしよう、と思ったのでした。

札幌には「石橋時計店」がある

近所の商店街にある老舗の時計屋さん。

こちらにお伺いすると「時間はかかるけど治せますよ」とのこと。

・分解掃除

・ゼンマイ交換

・巻き芯調整

をやってみるとのことでした。

しかも、45KSの強力なゼンマイではなく、輪列にあまり負担をかけないトルクが少なめの新しいゼンマイに交換してみましょう、とのこと。

45KSのゼンマイ切れには他の生きている45KSのゼンマイを移植するくらいしか方法がないと思っていなので、この提案には少なからず感動したのでした。トルクの違うゼンマイに交換するとなると、回転数?や長さの調整が非常にシビアになるのではないでしょうか。それを可能にするとは、流石の老舗の知恵と技術力です。

kai-hokkaido.com

新しいゼンマイで復活した45KS

そして先日。ついに治ってきたのでした45KS。

アワーマーカーやSEIKO、KSの文字はアプライドで非常に立体的。特にアワーマーカーは丁寧に面取り部分が磨かれていて腕の向き、光の加減で非常にキラキラして美しいです。

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確かに巻き上げの感触は通常の45KSの硬い巻き上げ感よりマイルドになっています。

10振動(5Hz /秒)なので精度も非常に高いです。たぶん日差±5秒くらいではないだろうか。

手巻き機械なので自動巻のような「巻き上げ機構」がなく薄くてシンプルなキャリバー。歯車だけでなくネジや地板のテーパー部分にまで磨きが掛けられていて、当時の丁寧なモノづくりの気合が感じられます。

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キングセイコーの中でもこの45KSや56KSのケースデザインが一番好きです。ラグとケースが一体になりながら、クッションケースのような重たさを感じさせず、面の出し方が非常にシャープです。現在、グランドセイコーの一部(ヘリテージコレクション)にも使われていますね。秀逸なデザインだと思います。

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シリアルから1973年4月の製造とわかります。いわゆるバースデービンテージ、同い年の時計です。

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上のリンクにある石橋時計店の石橋昭市さん、今年95歳になられる現役時計師。

その石橋さんが「この頃の時計は丁寧に作られているから、大事に使ってください。何十年も持ちますよ。」と修理が終わった45KSを手渡してくださいました。今も店頭に立ち、時計旋盤を回さない日はないという石橋さん。年齢を感じさせない仕事ぶりと慈愛に満ちた話し方が印象的です。ずっと時計の話を聞いていたいと思うようないい時間でした。

 

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