アナログ盤の愉しさ
レコードプレーヤーのカートリッジをオルトフォンに替えてからというもの、レコードを聴くのが愉しい。一枚をじっくり、一曲一曲を「きちんと聴く」体験は贅沢なものです。
オーディオ機器の歴史は、音楽を聴く行為をどんどん気軽に、手軽にしていく過程でもありました。機器の小型化は外へ持ち運べる音楽を実現しました。
卓上ラジオが小型ラジオになり、カセットテープレコーダーがラジカセに、ウォークマンに進化しました。
いまや実体メディアも必要なく、データ配信で音楽が聴けます。再生機は集積回路。
音楽の聴き方も変わり、イヤホンやヘッドホンで聴き続けられ、室内も屋外も関係なく聴く場所もシームレスになりました。
一方で、最近アナログプレーヤーでレコードをかけて音楽を聴くことが、忘れかけていた記憶や音楽への向き合い方のようなものを思い起こさせてくれたような気がしています。
ワーナー・パイオニア 邦楽総合試聴盤
クラシックやジャズの「ちゃんとした」名盤や名録音と呼ばれるレコードは中古市場でもプレミア価格でなかなかお高いです。一方、リサイクルショップの中古レコードコーナーやジャンクレコードコーナーでは、せいぜい数百円くらいで面白そうなレコードが見つかる時があります。ある日、見つけたレコードがこれです。
ジャケットは簡素なもので、年月を記入できるようになっています。買ったのは「(昭和)52年12月」の記載のあるもの。
もちろんジャケット写真などなく、ワーナー・パイオニアのマークと「邦楽(LS)総合試聴盤」、「宣伝販促用 [非売品]」、「強力新譜」という文字だけ。文字列の圧が強い。
放送局などにプロモーションで配布された今でいう“Power Play”なのでしょう。ワーナー専属歌手の当時の新曲が詰めあわされていました。
ジャケットを開けるまで実際にレコードにどんな曲が入っているのかすぐにはわからない、“お楽しみ袋”的な要素があります。
中を見てみましょう
小柳ルミ子「思い出にだかれて」、あのねのね「二人だけの休日」、さだまさし「線香花火」、ヒデとロザンナ「愛にふりむいて」…なるほどなるほど。
この盤の「当たり曲」はB面のこれ。
御存知人工沸騰NET「みごろ!たべごろ!笑いごろ!」名物音頭
「デンセンマンの電線音頭」
デンセンマン・伊東四朗・小松政夫・スクールメイツ(!)
ご丁寧に小さな文字でこの曲だけ解説風の説明が書かれています。名物音頭て。
NETは日本教育テレビ。後の社名「テレビ朝日」に変わるのはこの総合試聴盤の発売年月である1977年(昭和52年)3月でした。
音楽というよりはまあ、テンションの高い「ベンジャミン伊東」と今は亡き小松政夫扮する「小松与太八左衛門」が電線軍団と乱入しながら踊る、というドタバタがそのままレコード化されています。
ちなみにデンセンマンのキャラクターデザインは石ノ森章太郎、スーツアクターは後にオフィス北野の社長となる森昌行氏のAD時代だそうです。豪華メンバーすぎやしないか。
自分の幼いころの記憶でも一番古いものの一つに、「祖母の家のこたつの上でデンセン音頭を踊っていた」というのがあります。
電線音頭…40数年ぶりの再会です。